受託開発・SES企業が「次の成長」をつくるために。自社だけで戦わないという選択肢
by user
本記事は 内田 智英(株式会社アイリッジ ビジネスパートナー部 副部長 兼 アライアンス戦略グループ グループ長)の寄稿によるものです。
受託開発やSESを中心に、長年ITビジネスを続けてきた企業は少なくありません。
優秀なエンジニアがいる。
長年付き合ってきた顧客がいる。
一定の売上・利益も確保できている。
一見すると、安定した事業基盤を持っているように見えます。
一方で、経営者の方から、
「このまま受託・SESだけを続けていていいのか」
「人を増やさないと売上が増えない構造から抜け出したい」
「新しい事業を始めたいが、何から手をつければいいか分からない」
「大手企業との取引を増やしたい」
といった相談を聞くことがあります。
特に、経営者の世代交代を迎えた企業では、
「これまで築いてきた事業を守りながら、次の10年に向けて新しいことを始めたい」
というニーズが強くなっているように感じます。
私は、こうした企業にとって、必ずしも「自社で新規事業をゼロから立ち上げる」ことだけが答えではないと考えています。
むしろ、自社の強みを活かしながら、他社と組むことで次の成長をつくるという方法があります。
まず、自社の「強み」を見直してみる
受託開発・SES企業には、経営者自身が気づいていない強みが眠っていることがあります。
例えば、
- 特定業界の顧客基盤
- 特定技術に強いエンジニア
- 長年培ってきた業務知識
- 大手企業との取引実績
- 特定業界におけるネットワーク
- 開発・運用のノウハウ
- 顧客との長期的な関係
などです。
「自社にはプロダクトがない」
「自社には独自サービスがない」
という理由で、新規事業を難しく考えてしまうケースがあります。
しかし、必ずしもゼロからプロダクトを作る必要はありません。
例えば、
「自社の技術力 × 他社のプロダクト」
「自社の顧客基盤 × 他社のサービス」
「自社の業界知識 × 他社のテクノロジー」
という組み合わせでも、新しいビジネスを作ることができます。
「自社で全部やる」必要はない
新しい事業を始めようとすると、
「自社でサービスを開発しよう」
「新しい営業部隊を作ろう」
「新しい人材を採用しよう」
と考えがちです。
もちろん、それが必要なケースもあります。
しかし、すべてを自社で用意するには時間もコストもかかります。
そこで有効なのが、パートナーとの協業です。
例えば、
受託開発会社 × SaaS企業
自社が持つ顧客・業務知識と、SaaS企業のプロダクトを組み合わせる。
単なるSaaSの販売ではなく、
導入支援+カスタマイズ+運用支援
まで含めたソリューションにする。
SES企業 × 専門サービス企業
エンジニア人材の提供だけではなく、
特定業界・特定業務に特化した開発・DX支援サービス
として共同で展開する。
SIer × スタートアップ
自社では持っていない新しいテクノロジーやサービスを持つスタートアップと組み、
大手顧客向けの新しいソリューション
を共同で作る。
このように考えると、
「新規事業=自社で新しいものを作る」
という発想から、
「新規事業=自社の強みと他社の強みを組み合わせて、新しい価値を作る」
という発想に変えることができます。
大切なのは「パートナーを増やすこと」ではない
ここで注意したいのが、
「それなら、たくさんの会社と業務提携すればいい」
という話ではないことです。
私自身、これまで50社を超える企業とのパートナーシップを構築してきました。
その中で感じるのは、
パートナーの数と、事業成果は必ずしも比例しない
ということです。
重要なのは、
「自社に何が足りないのか」
を明確にした上で、
「その不足を補える企業はどこなのか」
を考えることです。
そして、もう一つ重要なのが、
「相手にとって、自社と組むメリットは何なのか」
という視点です。
パートナーシップは、自社だけが得をする構造では長続きしません。
自社には「顧客基盤」がある。
相手には「プロダクト」がある。
自社には「業界知識」がある。
相手には「新しい技術」がある。
このように、お互いの強みを持ち寄ることで、
「一緒にやった方が、一社でやるより大きなビジネスになる」
という状態を作ることが重要です。
「大手企業と組む」はゴールではなく、スタート
中堅・中小のIT企業から、
「大手企業と取引したい」
という相談を受けることがあります。
もちろん、大手企業との取引実績は大きな信用になります。
ただし、
「大手企業と契約すること」そのものをゴールにしない
ことも重要です。
大手企業が持っている顧客基盤、営業力、ブランド、サービスなどと、自社の強みを組み合わせる。
その結果として、
- 新しい顧客にアクセスできる
- 新しいサービスを作れる
- 大型案件を獲得できる
- 自社単独では入れなかった市場に入れる
といった成果につなげていく。
つまり、
「大手と取引する」から「大手と一緒に事業を作る」へ
発想を変えることが重要です。
私自身が経験した「組み合わせ」の可能性
私自身も、現在の会社で大手企業とのアライアンスを数多く経験してきました。
例えば、ある金融機関が展開するBaaSに対して、当社が持つスマートフォンアプリの企画・開発・グロース支援やマーケティングソリューションを組み合わせ、共同で顧客へ提案する。
これは、どちらか一方の商品を販売するだけではありません。
BaaSを持つ金融機関 × アプリ・マーケティングに強い企業
という組み合わせによって、新しい提案そのものを作っています。
また、流通・小売領域で培ったO2Oの知見を金融業界向けに再構成し、パートナー企業と共同で展開した経験もあります。
こうした経験から感じるのは、
新しい事業の種は、必ずしも自社の中だけに存在するわけではない
ということです。
事業承継・経営者交代は、新しい挑戦のチャンス
特に、経営者の交代を迎える企業には、大きな可能性があると思います。
先代が築いた顧客基盤や技術力、人材、取引先。
これらは、非常に大きな資産です。
一方で、新しい経営者が、
「今までとは違うことをやってみたい」
「新しい顧客層を開拓したい」
「自社サービスを作りたい」
と考えることもあるでしょう。
そのときに、
「全部自社でやる」か「何もしない」か
の二択にする必要はありません。
既存の強みを活かしながら、外部の企業と組んで、小さく新しい取り組みを始める。
そこで成果が出れば、徐々に投資を増やしていく。
これは、既存企業が新しい事業へ踏み出す際の一つの現実的なアプローチだと考えています。
「0→1」は、大きな投資から始めなくてもいい
新規事業というと、最初から大きな計画を作り、多額の投資をするイメージがあります。
しかし、私はむしろ、
「まず1件、一緒にやってみる」
ことが重要だと考えています。
パートナー候補を見つける。
両社の強みを整理する。
顧客課題を考える。
一緒に提案する。
そして、最初の1件を作る。
その1件から、
1→10へ広げられる可能性があるのか
を検証する。
これは、私がパートナーセールスの経験を通じて学んできたことでもあります。
次の成長は「自社の外」にあるかもしれない
受託開発・SES企業がこれまで培ってきたものは、決して過去の資産ではありません。
顧客。
技術。
人材。
業界知識。
信頼。
そして、長年築いてきたネットワーク。
これらを他社の強みと組み合わせることで、新しいビジネスを生み出せる可能性があります。
「自社だけで新規事業を作る」のではなく、「他社と一緒に次の事業を作る」。
これは、特に既存事業を持つ中堅・中小企業にとって、現実的な成長戦略の一つではないでしょうか。
私自身、これまで大企業側での新規事業・アライアンス経験と、成長企業側での営業・パートナー戦略の両方を経験してきました。
だからこそ、単に「パートナーを紹介する」のではなく、
「自社には何があり、何が足りないのか」
「誰と組めば、新しい価値を作れるのか」
「どうすれば最初の1件を生み出せるのか」
そして、
「その1件をどう次の成長につなげるのか」
まで、一緒に考えることができると思っています。